新築住宅

神奈川鎌倉Q邸 (2009年竣工)

今日からは湘南の海を眼下に望む鎌倉材木座Q邸の紹介。
80坪を超える床面積。

完成までに一年以上の歳月が。
だが敷地の変更も含めると設計から完成まで3年の期間を要した。
周囲は小高い山々に囲まれ

鎌倉の地形的特色となっている谷戸である。
海と緑、この恵まれた環境を十二分に生かすため
広々としたリビングダイニングを2階に設けた。

幅6m×長さ14mの長方形の柱のない空間を
木とスチールがお互い補い合うハイブリッド構造で構成。

画像は建前時のものだが、
青空を背景に構造体がそのまま浮かんでいる。

屋根が取り付いていない
この時にしか見られない美しい光景である。

屋根が取り付いてしまっても
なおかつ美しい内部空間を作るのが設計者の腕。

巾6×長さ14=84㎡というと、
ちょっと広めのマンションだろうか。

そのくらいのリビングダイニングである。

前回の画像の赤いスチールの部分はシルバーに塗装されて、
ベンガラの陰影の中に浮き上がるイメージだ。

色彩計画としてはベンガラの濃紫色、漆喰の白、
そして床カリンの赤みを帯びた茶色である。

建具についてはカリンではないが木の素地を生かした塗装。

本来であればベンガラの濃い色が建具に塗装され
外の景色を際立たせる。

外部の手摺もベンガラで塗装し
内と外とが分かりにくくして広がりを持たせるのであるが
素地のままだと多少中途半端な感が否めない。

それでも出来上がってしまうと
いつの間にか「市民権」を得て、
最初から自然な顔をしている。

カリンとベンガラの相性はよく、
右側収納部の一部壁につかっているがお分かりいただけるだろうか。

 

メーカーのシステムキッチンを使っているが扉の面材を
インテリアのベンガラに合わせているため目立たない。

周囲の収納部やテーブルとも溶け込んでいる。

漆喰壁の屋根に近い部分は白壁が光って見えるが、

少し離れて西側の山々が見えるガラス面があり
そこからの光を受けている。

従い夕日を浴びればこの部分はオレンジ色に光り、
ちょっと幻想的な雰囲気になる。

反対の東側もこのような工夫の部分があって
切り妻の屋根の形をくっきりと現す。

6m×14mのリビングダイニングを前回とは逆、
東側から見た画像。

左手にあるはずのキッチンは見えず
平行して並ぶアイランドカウンターを手前に配す。

カウンター天板は厚いステンレス。

一体成形のパーティーシンクを備えている。

全体の大きさがこのアングルだとよく分かる。

また屋根の組み方、シルバーに塗られたタイロッドのあり方、
右側大型ガラス戸を実現させる
スチールのトラスなどの位置関係も明確だ。

突き当たりの切り妻型の壁一部は前回説明のごとく
一部が光を通す白壁になっている。

左側奥に1階からの階段があり、
上るにつれこの2階リビングダイニングの

全容が広がり、見えてくる。

初めて訪れた人の歓声があがるところだ。

右窓から材木座の家並み越しに相模湾を眼下に望む。

リビングの手前はベンガラで塗装していますが、
奥は白木の素地を生かしています。

その更に奥に白壁に囲まれたバルコニーが広がり
外の緑を額縁のように見せています。

このバルコニー部分、実は天井があるので、
壁部分のみが吹き放ち、
屋外でありながら、室内のイメージ。

座ったり、ねっころがったりして正面の山の緑、
右に広がる海の光景を楽しみます。

左端の階段は屋上に続き、
そこからは更に上からの谷戸の緑と海を眺めます。

右上の白壁の白く光る部分が屋上で、
手前のリビングに直接南からの光を注いでいます。

天井があり室内のような空間で座ったり寝転がったり出来る、
白壁で囲まれたスペース。

手前の天井や建具はオイルを、
バルコニー天井にはベンガラを塗っています。

ガラス建具上部は梁に直接建具溝を掘った差鴨居とし、
建具周りをすっきり見せています。
(古民家ではよく見かける方法です。)

 

素材は壁、天井が檜板、腰壁と床、
そして現場で製作した浴槽は十和田石、
伊豆の青石同様淡いグリーンの色彩と
その滑りにくさに特色があります。

画像、正面の窓には透明のガラス、
右側の格子窓には半透明の合成樹脂板。

外部の庭先隣家の窓への対応です。

この樹脂版、「ツインカーボ」という素材で、
割れず、断熱性も高く、しばしば使用します。

中空の板の中にも細かな仕切りがあって
光を拡散するとともに、室内を見えにくくします。

拡散の仕方には味があり、今回使用したのは6ミリ厚ですが、
伊豆赤沢の家で使用したのは25ミリの分厚いものです。

当初床板として使ったので当然の厚みですが、
重量に耐えるよう複雑な仕切りが中にしてあります。

光を通す具合も又複雑で、
糸のような細いチューブが無数に入っているような感じ、
と言ったらよいでしょうか。

画像正面の木製窓の外は坪庭的で外壁面より奥まっている、
故に透明ガラス。

陽もあたる場所なので大型の観葉植物などを置き、
視覚的な広がりを生み出します。

 

バスルームの続きで今回は出窓部分の画像です。

格子の間からツインポリカーボネート板を通して入る光が
暖かく感じられます。

外部の出窓のひさし部分がうっすらと見えますが
見えるようで見えないあいまいな感じです。

不透明な障子は満遍なく光を拡散させますが、
ツインポリカは拡散の仕方も あいまい、
適度な塩梅といったところでしょうか。

使用の際は、あまり前面に出さない、
格子を入れてポリカを隠し気味に 使う事が肝心で、
目立つ使い方だと合成樹脂の違和感が強く出ます。

出窓格子近くによって見た画像です、
ツインポリカ自体に細かな縦の線が入っているので、
光を浴びるとこの様な模様が出来ます。

ベンガラ塗り格子戸の中に更に細かな「格子」
が入っているイメージで光を拡散させています。

格子という日本の伝統建築の要素に
ツインポリカという現代の素材が組み合わさることで
新たな「和」を創っています。

 

画像正面は鏡ですが
右はガラスでバスルームの壁が連続しています。

仕上げの素材も浴室と一体化させて、
檜の板を壁に使い、
カウンターや腰壁には十和田石を貼っています。

洗面陶器は水ハネに対応したバックガードつき、
水栓も壁付けで接続部の汚れ落しが楽なタイプです。

 

襖のデザインは柳柄で柳部分は白とシルバーの二判刷り、
引き手は桜です。

制作担当会社はその名も「襖Design」.
http://fusuma.ti-da.net/d2009-10.html

縁取りを行わない「太鼓張り」の襖で、
脇にも柄が回る美しい画像が紹介されています。

また襖Design さんには強羅の家、腰越の家、港南台の家などでも、
別の柄ですが制作してもらっています。

床の間のない和室が多くなった昨今、
ここも例外ではありませんが
襖に特色を出すことで床の間の装飾性を補うことが出来ます。

 

前回画像を和室の西面とすれば今回は反対の東面です。

上部はガラスをはめ込んだ格子窓、
下は左側の壁に引き込み
フルオープンとなるガラス窓になっています。

格子部分も引き込み更に庭との一体感を出したいところですが、
屋根の出を支える方杖(つっかえ棒のようなもの)との関係で
やむを得ず上下に分けた経緯があります。

けれども、窓の形が
黄金比にちかく美しいプロポーションになったこと、
右に続く窓のとのコンビネーションで
茶室の落ち着きを持つ障子の構成が出来たことなど、
よい結果を生んでいる。
これは当初の想定に無かったことでした。

 

前回茶室の落ち着きを持った障子の構成、と書きましたが
実際はこんな感じです。

障子部分はそれぞれ2枚組みの建具に見えますが、
全体をひとまとめにした一枚戸で、
それぞれ右と左の壁に引き込み、
庭やデッキに向かって全開し、
外部との一体感をもつ設計としています。

天井は茶室のように、立てば人の頭が着く程、低くはないので、
外の見える部分を下に限定し、重心を低くして、
落ち着いた、たたずまいにしています。

天井は杉の板ですが木目の方向を隣同士反対にして張り

市松状にデザインをしています。

 

いきなりですが靴脱ぎ石の上にのしかかった階段が
玄関の大戸を開けると現れます。

石の独特なカーブを写し取って木材の先端を加工する
-建築では、光付け‐てりつけと言います-
という複雑な作業ですが大工さんは何とかこなしています。

玄関ホールの有効巾から石の大きさが限定されていて、
葉山の石屋さんでようやく見つけたものですが、
画像のように板の載るところが外側に傾いているので
技の見せ所、大工さんは楽しんでいました。

 

石の上に載った階段を紹介しましたが周囲の様子を少し紹介します。

玄関ホールは土間になっていて、その中に階段が降りてきます。

階段を上ると以前紹介したリビングルームへとつながります。

階段の後ろはプライベートな玄関、
木の部分はベンガラではなく
ワトコオイルで生地仕上げにしています。

これは1階の光の量が少なめのせいで
光の量が多い2階はベンガラ塗装を主体にしています。

 

鎌倉の家の外部を紹介して行きます。

まずは玄関アプローチ。

外壁は木摺板大和張り
(凹凸のある板の張り方、外壁に陰影を作る)の上にベンガラ塗装。

左の玄関戸はたたみ二枚分の大きさ。

外壁と一体的に見える格子戸。

開けると前回のブログで紹介した階段が現れます。

玄関戸のうえに少し白木の部分がありますが
内部の色が外部に現れています。

どうせならすべてベンガラで塗ってしまえばよい。
のですが、内部を予感させアクセントとしても利いています。

玄関格子戸を開けたところです。

このように天井の白木の感じが一部建具のレール部分として
外に現れてでていた様子が見て取れると思います。

細かいところですが、外を優先してベンガラを塗るか
内を取るか迷うところでもあります。

 

道路からの景観。

階段に続く格子戸が門となり開けると前回の場面になります。

2階バルコニーは吹き抜けており遠方に海を見下ろします。

海の方向以外は小高い山々に囲まれている「谷戸」に建っており
この鎌倉の地形的特色が静かな環境を作り出しています。

 

カーポートの屋根というと
普通は建物と別に作ることが多いようですが
ご覧のように建物本体の屋根が壁から3メートル近くはねだしています。

そのためしっかりした構造が求められます。

海側のバルコニーとあわせ両側でバランスを取る
天秤棒の考えでこちら側に張り出しています。

神社やお寺のように構造体をそのまま現し
力強さの表現にもなっています。

道路斜線の建築制限もあり屋根を大きく出来なかったが
奥深い二階のバルコニーや外壁一階周りのひさしによって
海からの風や雨などから建物を保護しています。

画像左側の遠方に海。

晴れた日には伊豆半島。

あとは富士山が、となりますが
敷地の手前、東端に建物を設置して
屋上レベルから何とか富士山をながめる軸線を探求。

が手前の庭がつぶれる事になり計画途中であきらめています。

 

2月14日のブログ画像でいいますと
建物左側に回り込んで撮ったものです。

突き当たり左側の門のような部分、
左の建物は今回の計画とは関係ありません。

デッキ下は法面で土手になっており、敷地の有効利用を図るため、

その上部にデッキが幅広く敷かれています。

左手が海側になります。

 

ようやく海側の光景ですが右端の建物上部に広がっています。

空と海の境が分かりづらいかもしれません。

海側の敷地境界に沿って法面、
土手が続きしかも容易に擁壁を作ることが出来ません。

そのためこのように境界近くまでデッキを張り出しています。

両側を自らの建物で囲い、
落ち着いた陽だまりのスペースを作っています。