和風建築の粋
ひとつは陰影だと思います。
陰影というと、暗い、とマイナスイメージですが、実際は明るさがあるからこそ影があるわけで暗さだけそこにあるわけではありません。
茶人、千利休は白木の桧造りの書院と白木にベンガラを塗り、
古色を出し黒くした色付け九の間(3間×3間の部屋)書院双方を聚楽第に作ったといわれます。
又、利休の茶室といわれる「妙喜庵待庵」の木材にもベンガラが塗られ、
江戸時代の「桂離宮」でも同様にベンガラに練墨を入れ古色を出していたことが昭和平成の大修理で判明しています。
しかし当時、高価だった、この鉄分を含んだベンガラという顔料を塗ったのは表層的な古色のためだけでしょうか?
ベンガラに練墨をたっぷり混ぜて木部に塗り、黒くなっても、光の当たりようで濃い紫になる。
塗装後、布で乾拭きすると鈍く光り、木目もいぶし銀のごとく浮かび上がるなど、
ベンガラはいくつもの隠された表情を持つ、侘び、寂びの精神にかなう素材の故ではと思います。
実際、現場で2階の床や屋根の木組みの天井にベンガラを塗るとそれだけで陰影が一層広がる、つまり一般の塗料とはちがう「陰影を持つ趣のある素材」、「陰影の発光体」ともいえましょう。
ではなぜ現代にベンガラなのか、上記のような陰影やわびさびの美意識、古色は何の役に立つのか?
ベンガラを白木に塗ると気持ちが落ち着くのです。
ベンガラを自然の木に塗装することによって、松や杉など木材の色味の違いが無くなり、多くの節を隠し、そのうるささ、雑然さを消す。きちっとする、完成している、立派に見える、など白木のままだと満たされない気持ちを埋めるからかもしれません。
また逆に適度な暗さがあるからこそ落ち着くともいえます。
実際、右下の写真のように左手奥に適度な暗さがないと
明るさの程度がわかりません。
そこの暗さが更に深ければ少ない光でも明るく感じるでしょう。
東日本大震災の際、原発停止で電力供給が不足しJR横浜駅コンコースの照明は半分に落とされていました。
が、何かヨーロッパの駅に来たようでエレガントさを感じ、今までいかに明るすぎたのか教えられた思いでした。
ベンガラのもたらす陰影と迫力は実際体験してみると、
「外が曇りだと部屋に入る際、無意識のうちに部屋の照明を付けていたが、陰影があると明るさが適当に見え、照明をつけずに済む。」